まず一言で
動脈血栓では抗血小板薬、静脈や心房細動に伴う心房内血栓では抗凝固薬。これが使い分けの大原則です。
ただし、「詰まった血管が動脈なら、必ず抗血小板薬」ではありません。血栓がどこで、どのように作られたかまで考えます。また実際の治療は病態、出血リスク、処置などによって変わります。[1–3]
血小板とフィブリンは、止血の共同作業をしている
血管が傷つくと、血小板がその場所に集まり、互いにくっついて傷をふさぎます。同時に凝固因子が働き、糸状のたんぱく質「フィブリン」ができて、血小板の集まりを補強します。
血小板を「集まる材料」、フィブリンを「まとめて支える網」と考えると、二つの薬の違いが見えてきます。
- 抗血小板薬:血小板が活性化し、集まる働きを抑える。
- 抗凝固薬:凝固系に作用し、フィブリンが作られる過程を抑える。
どちらも血栓を防ぐために使いますが、以上のように狙う場所と工程が違うのです。ただし、血小板と凝固系は互いに関係しているので、完全に別々の仕組みではありません。[1,4/元講義スライド5–7]
なぜ「動脈では血小板、静脈では凝固系」なのか
動脈硬化のある血管では、壁が傷つきやすい
動脈硬化のプラークが破綻するなどして血管壁の内側が傷つくと、血小板が付着・活性化し、血栓形成に大きく関わります。冠動脈疾患や冠動脈ステント留置後などで抗血小板薬が重要になる理由です。[1]
静脈では、血液のうっ滞に注目
脚を動かしにくい状態などでは、静脈の血流が滞りやすくなります。凝固が進んでフィブリンを多く含む血栓ができることがあり、深部静脈血栓症などでは抗凝固療法が治療の中心になります。ただし、血流だけで決まるわけではなく、血管内皮の障害や血液が固まりやすい状態も関係します。[5]
「急流には抗血小板薬、よどみには抗凝固薬」という原則は広く応用できます。
1枚で整理する、使い分けの大原則

| 注目する病態 | 大きく関わる仕組み | 中心になる薬 |
|---|---|---|
| 動脈硬化に関連する血栓・冠動脈ステント血栓 | 血小板の活性化・凝集 | 抗血小板薬 |
| 静脈血栓 | 凝固系・フィブリン形成 | 抗凝固薬 |
| 心房細動に伴う心房内血栓 | うっ滞と凝固系 | 抗凝固薬 |
※原則を理解するための模式的な整理です。例外や併用があります。[1–3,5]
脳梗塞なのに抗凝固薬を使うのは、なぜ?
ここで、一見ややこしく、皆さんがつまずきやすい脳梗塞について考えてみましょう。脳梗塞では脳の動脈が詰まります。それでも、再発予防に使う薬は原因によって異なります。
非心原性脳梗塞では、抗血小板薬が基本。心房細動による心原性脳塞栓症では、抗凝固薬が中心です。[2,3]
なぜでしょうか?
心房細動では左心房、特に左心耳などに血液がうっ滞し、血栓ができることがあります。それが脳へ流れて動脈を塞ぐと、心原性脳塞栓症になります。
詰まった場所は動脈でも、血栓ができる原因はうっ滞なので抗凝固薬が治療薬となるのです。(ここでの説明は主に予防の考え方であり、急性期脳梗塞の治療手順を示すものではありません。)[2,3/元講義スライド15–18]
代表的な薬は、名前と役割を結びつける
抗血小板薬にはアスピリン、クロピドグレルなどがあります。抗凝固薬には、アピキサバンなどのDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)、ワルファリン、ヘパリン系があります。[1–4]
覚えたいのはそれぞれが、どんな血栓を、どの仕組みから防ごうとしているかです。DOAC同士でも適応、減量基準、腎機能に関する条件は同じではありません。疾患と患者背景、添付文書を合わせて確認します。[2,4]
二つを併用することもある。ただし、出血にも注意
例えば、心房細動のある方が冠動脈ステント治療を受けると、抗凝固薬と抗血小板薬を併用する場合があります。心房内の血栓とステント血栓という、異なる予防目的が重なるためです。
一方、併用すると出血リスクも増えます。何剤を、いつまで使うかは個別に判断します。「二つ飲めば安心」「ずっと続ければ安心」というわけではありません。[1,2]
現場では、処方を見たときに次を確認すると、患者さんを観察する際の注意点につながります。
- 目的:何の血栓を防いでいるか。
- 出血:黒色便、血尿、止まりにくい出血などの変化がないか。
- 患者背景:腎機能、年齢、体重などが確認されているか。
- 併用と期間:ほかの抗血栓薬やNSAIDsが重なっていないか。終了・見直しの予定はあるか。
気になる所見は速やかに医師・薬剤師と共有しましょう。自己判断の休薬・再開・減量につなげないことも大切です。[2,4]
まとめ:薬の名前から、血栓ができる場面を想像する
まず、「動脈血栓には抗血小板薬、静脈・心房内では凝固系」と覚えましょう。そのうえで、血栓の形成機序、処方目的、出血リスクを確かめます。「どの血管が詰まったか」から「どこで作られた血栓か」へ視点を広げると、使い分けが整理できます。
Before / After:理解の変化
Before
抗血小板薬と抗凝固薬。名前も似ているし、どう使い分けるの?
After
動脈血栓には抗血小板薬、静脈・心房内では抗凝固薬。血栓の発生原因まで考えるとより理解が深まります。
30秒理解度クイズ
選ぶと、答えと解説が表示されます。
心房内のうっ滞と凝固系が血栓形成に関係します。脳の動脈が詰まる病気でも、予防では血栓ができる仕組みに注目します。[2,3]
答えと解説を見る
正解:B。心房内のうっ滞と凝固系が血栓形成に関係します。脳の動脈が詰まる病気でも、予防では血栓ができる仕組みに注目します。[2,3]
併用が必要な場面はありますが、出血リスクも高まります。必要性と期間を確認し、自己判断で中止しません。[1,2]
答えと解説を見る
正解:A。併用が必要な場面はありますが、出血リスクも高まります。必要性と期間を確認し、自己判断で中止しません。[1,2]
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この記事は医療スタッフ向けの一般的な医学教育です。個々の患者さんの診断、薬の選択、投与量、休薬・再開を指示するものではありません。
参考文献・情報源
- 日本循環器学会.2020年フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法.公式英語版全文。血小板治療、PCI後、抗凝固薬との併用。
- 日本循環器学会/日本不整脈心電学会.2024年フォーカスアップデート版 不整脈治療(2025年5月26日更新)。心房細動の抗凝固療法、腎機能、併用薬。
- 日本脳卒中学会.脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕改訂項目。非心原性脳梗塞・心原性脳塞栓症の予防。
- PMDA.エリキュース錠 電子添文(2026年3月改訂)。作用機序、適応、出血、腎機能、併用注意。これはアピキサバンの資料であり、全DOACに同じ条件を当てはめない。
- 日本循環器学会/日本肺高血圧・肺循環学会.2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン。公式英語版掲載ページ。
元資料:OMS「抗血小板薬と抗凝固薬の使い分け元ネタ.docx」「OMS_抗血小板薬と抗凝固薬の違い_30分院内講義_v3.pptx」。情報確認日:2026年9月20日。